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最高裁判所第三小法廷 昭和52年(オ)680号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人河本光平の上告理由について

原審の確定したところによれば、本件の事実関係は、(1) 上告人は、昭和三七年三月九日訴外和田政一から本件土地上に所在する本件家屋を買い受けるとともに、本件土地につき同人との間で建物所有を目的とする賃貸借契約をした、(2) 上告人は、当時訴外渡辺千冬に借金があつてその支払確保のために本件家屋に担保権を設定する趣旨のもとに右同日渡辺名義の所有権移転登記を経由したが、本件土地の賃貸借については登記をしなかつた、(3) 被上告人は、和田から本件土地を買い受け、昭和三八年八月二八日自己名義に所有権移転登記を経由した、(4) 上告人は、渡辺に対する債務を弁済して同年一二月一三日本件家屋につき上告人名義の所有権移転登記を経由した、というのである。

右事実関係によると、上告人は、被上告人が本件土地につき所有権移転登記を経由する前に、本件土地につき賃貸借の登記をした事実、又は本件家屋につき上告人名義の所有権移転登記を経由した事実がないのであるから、建物保護に関する法律一条の趣旨にかんがみ、上告人は右賃借権を被上告人に対抗することができないものというべく(最高裁昭和三七年(オ)第一八号同四一年四月二七日大法廷判決・民集二〇巻四号八七〇頁参照)、この理は、上告人による本件家屋の所有権取得時期が被上告人の本件土地に関する所有権移転登記の時より前であり、かつ、本件家屋の渡辺名義による登記が債権担保の趣旨であつたとしても、異なるものではなく、右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 江里口清雄 裁判官 天野武一 裁判官 高辻正己 裁判官 服部高顕 裁判官 環 昌一)

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